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かごめ鞠子

Author:かごめ鞠子
鎌倉で思案中です。
なお、当ブログはかごめ鞠子の創作テキストブログです。ブログ内記事の無断転載・引用はご遠慮下さい。

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SUN/2

 境内の駐車場近くのお化け屋敷から出てくる影薄い男女が、小屋主の勘九郎に挨拶をして空に消えていった。勘九郎は渋い顔で空を見つめている。
「田所さんたち、もう帰ったの」
 桜姫が声を掛けると、勘九郎はいつもの愛嬌のある顔で振り向いた。
「桜姫ちゃん、今年も盛況だったね」
「信者が増えたからね。除霊で繁盛ってどうかしらね」
 姫守の巫女たちは霊的能力の強い者が多い。姫守神社も十年ほど前までは降霊で、親しい人と話をしたいという客が多かったが、最近は、取り憑いた霊を落としてくれという客がほとんどだ。
 しかも、取り憑いているのが生霊というやっかいな仕事も増えている。
 祟る霊を諭し本来の場所に帰ることを説得するのが浄霊、拒否したとき強制送還させるのが除霊である。
 桜姫は除霊の能力に優れている。それもかなり攻撃的で強制送還というより強制終了に近い。
 勘九郎は猪首に巻いた絞りの手ぬぐいをたたむと懐にしまった。
「最近はいけねえや。幽霊なんか怖がりゃしねえ。怖いものがなくなったら、もう、おしめえだ」
「そうなったら、うちも商売あがったりだわ」
 勘九郎はお化け屋敷の小屋主である。冬でも素足で、今日は作務衣の上に薄い綿の入ったちゃんちゃんこを着ている。
 小柄な体、体に不釣り合いな坊主頭の大きな顔が乗っている。年は六十にも見えるが百才と言われたらそうとも思える。ひねた子供の様にも見えるのは、目鼻が顔の下半分にあるせいかもしれない。
「幽霊は増えてるのにね。そう言えば、今年はリサちゃん見かけなかったけど?」
「お盆の前に辞めたんだ。たまにカレシのところにも化けて出たが、ぜんぜん見えねえんだとよ。サラ金の取り立て屋やなんて、見えているのに恐がりもしねえらしい。
見慣れているのかねえ。疲れたって…今年は三回忌だし親に供養をしてもらって成仏してえってよ。
近頃の奴らは幽霊より機械が造ったもんのほうが怖ええらしい。どうしたもんだか」
 勘九郎の言う機械が造ったもんとはCGやSFXのことである。桜姫は笑いをかみ殺した。
「そういうのが怖いのは人間が造っているからさ」
 玉藻は皮肉っぽく答えた。
「リサちゃんもそんなカレシ、こっちから一発殴って振っちゃえば良かったんだよ」
「桜姫ちゃんはいつでも直球勝負だ。男にもてたいがためにサラ金に金借りてまで整形なんてしねえだろうな。まして自分で命を絶つなんて」
 勘九郎は頼もしげに桜姫を見た。
 たとえ剛速球でも打たれることもあるのだということを桜姫はまだ知らない。
「当たり前よ。わたしのどこを整形しなくちゃならないの。この顔に文句がある男なんてこっちから願い下げだわ。でも、良かった。いつまでもフラフラしていると、本当に成仏できなくなちゃうから」
「まあ、リサちゃんはちょっと道、間違えちまっただけで根は優しい子だからね、怨んで化けてでるなんて性に合わねえ。桜姫ちゃんの言うとおりだ、早く成仏したほうがいいや。でもよ、妖怪も影を潜めているし、幽霊を怖がる奴もいねえ。世紀末ってやつかね」
「勘九郎、世紀末はもう終わったんだぜ。いつでも、世紀末に向かって人間は生きているのだから間違いとも言えないがね」
 玉藻には時代遅れの勘九郎がおもしろくてたまらない。
「世紀末の後には何がくるのやら…」
「勘九郎ちゃんがいるじゃない」
 悲観的になる勘九郎を桜姫が慰めた。
「あたしなんかより、夜中、化粧の茶色い娘っ子が…」
「ガングロ、あれは滅んだ」
 玉藻が揶揄を入れる。
「そうだったかな、時間の長さがいくつになってもわからねえ。ともかく若い女の子がよ、携帯持ってけたたましく笑いながら歩いている方がよっぽど怖えよ。
鼻やら耳に穴あけてよ。言うじゃねえか、『身体髪膚これを父母に受け、あえて毀傷(きしょう)せざるは孝のはじめなり』あれは新種の妖怪かよ」
「だったら仲間じゃん」
 桜姫は勘九郎の肩を抱いた。
「違いねえ」
 笑いながらも割り切れない思いの残る勘九郎である。
「勘九郎、お前も乗ってくか?」
「車ちゅうやつはどうもねいけねえや、鉄の塊がでけえツラして、ケツじゃ臭い屁を垂れ流してやがる。おっと失礼、レディの前で。放屁めされる。なにしろ山のモノはデリケートだ、みんな怒っていやがらあ。
そうだ、桜姫ちゃんの巴御前、楽しみにしてるよ。みんな大騒ぎだ。ここんとこ、鎌倉の山も居づらくなっちまって陸奥か信濃の山奥にでも引っ越そうかなんて声もちらほらあるから、桜姫ちゃんの勇ましい姿もこれが最期だなんて、しけた面してやがる。
桜姫ちゃんの晴れ姿で元気を貰いたいもんだ。じゃあな、鎌倉で待ってるよ」
 勘九郎はなにやらもごもご言うと頭をつるりと撫でた。つむじ風が起こり小屋が消え勘九郎も消えた。
「本当なのかな、勘九郎ちゃんの話」
「山奥に引っ越しって話か?すぐということでなくても、いずれはそうなるだろうな。でも、勘九郎たちもしたたかだ、そう簡単に逃げ出しはしないさ。急ごう、怪しい雲行きだ」
 玉藻に言われ桜姫は空を見上げた。星が見えない、今にも降り出しそうな厚い雲が空を覆っている。
「昼間はあんなに天気良かったのに」
「姫守本宮の祭礼は雨雲も遠慮するのさ」
 二人は駐車場に急ぎ玉藻のポルシェに乗り込んだ。
 
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